July 11, 2007

上場の意味

  
  2007年7月10日、SBIホールディングスが、傘下の子会社を通じて、ナルミヤインターナショナル(3364)にTOBをかけることを発表しました。発行済株式数の37%を握る創業家一族と現経営陣は、このTOBに賛同していることから、株価等でもめることもなく、あっさりと成立しそうです。この会社の上場は、2005年3月ですから、わずか2年4ヶ月の上場期間だったと言えます。TOB後は、SBI傘下で、リヴァンプの支援のもと、経営再建を推進するとのことです。

  上場来の株価チャートを参照してください。いくら、将来のことはわからないとはいえ、むごい限りです。これでは、上場後に株式を購入した投資家で儲かった人間はほとんどいないことになります。「ナルミヤインターナショナルのIPOは創業家の事業の換金だけが目的だった」と言われても仕方のない状況にあります。


  2007年3月19日に、吉本興業が2007年10月1日から持株会社制に移行することを発表しました。この組織変更に伴い、2006年2月に上場したばかりの吉本興業の子会社、ファンダンゴの完全子会社化を発表しています。ファンダンゴは、主に吉本興業所属のタレントを活用したお笑いコンテンツなどをDVD化して消費者に販売している会社です。上場直後の2006年3月期の業績は、売上高9,644百万円、経常利益1,468百万円、当期利益514百万円と絶好調の業績をたたき出しましたが、その後は、業績下方修正などもあり、株価は急降下しています。このチャートを見る限り、上場後に株式を購入した投資家で儲かった人間は、ナルミヤインターナショナル同様、ほとんどいない状況で、完全に株価が落ちきったところで株式交換比率が算定されています。こちらも「ファンダンゴの上場は、単なる親会社の必要資金の代理調達、及び、上場時に売り抜けたファンドなどの既存株主の資金回収に過ぎなかった」と言われても仕方のない状況にあります。

  こうした、上場後の投資家にのみ犠牲を強いるような、いわば資本市場を食い物にしたようなIPOは許されるべきではありません。会社の人と一緒になって、夜中までIPOの準備に明け暮れた会計士も、これでは全く報われません。証券取引所の上場ルール上、何らかの規制も必要であるように思いますが、ファンダンゴのケースは別として、「業績が悪くなったのは想定外でやむなく救済してもらうために身売りした」と会社に言われてしまえば、それまでのような気もします。

  
   現時点における個人投資家としての自己防衛手段として考えられるのは以下のようなことでしょうか。

? 目論見書を徹底的に読む。(潜在リスクを十分に把握する)
? 明らかに割高な初値がついているIPO株は絶対に手を出さない。


Posted by cpainvestor at 06:54:00 | from category: c.投資雑感 | TrackBacks
Comments

オリーブの木:

  御無沙汰してます。
  ナルミヤインターナショナルもなのですが近頃、ソフト99や東部ネットワーク、鈴茂器工等、比較的堅実な経営成績で、しかも無借金もしくはほぼ無借金で、その上で利益剰余金以下の時価総額という企業が散見されるように思えます。
  グレアムが存命でしたら、このような企業に広く分散投資を検討するかもしれないですね。
  
 
 
(July 12, 2007 00:09:45)

森本 新兒:

cpainvestorさん
こんにちは。
伊豆ではお世話になりました。
冷静と情熱を併せ持つ会計士だなと思っていたのですがブログを拝見して改めて納得しました。
しかも弊社の取締役にこのブログを見せたら、彼のお気に入りブログだったこと聞いて二度びっくり。
世の中は狭いものですね。。

今回のように株式市場を愚弄する会社に対して、プロとして世の中に問うべきだと
酔っ払ってみんなで言っていたことを忘れずに早速今回のエントリにしていただいたんですね。
さすが行動するintelligent-investorだと
嬉しくなりました。
私もロマンとソロバンを是非両立させて
日本の金融を変えられるような投信会社をつくれるように頑張ります。

今後も意見交換楽しみにしております。
(July 12, 2007 18:36:32)

ipoconsultant:

いつもお世話になっております。
とても悩ましい問題ですね。
新興市場への上場は、本来であれば、上場によって資金調達をしたり、社会信用を得たり、知名度向上や優秀な人材の確保などによって、上場後更に成長していくためのものだと思っています(魅力的な会社にとっては、成長を更に加速させる二段ロケットの役割になるものと思います)。
上場は、中間地点という意味では「ゴール」なのかもしれませんが、本当に目指すべきところはその先にあるべきだと思います。
自分の職業柄、上場の意義・目的というものを考えさせられることが多くありますが、上場すること自体が最終とか唯一の「ゴール」だと考えている会社さんは応援したくないですね。
投資家の視点でいえば、
?公開価格で買えるのではなければ、IPO直後の投資は基本的に控える
?公開後しばらく経って、明らかに割安といえるものがある場合に限って、慎重な検討の上で投資する。
?新興市場の株(特に上場直後)は、個人株主ばかりであるという事実を肝に銘じる(=プロが手を出さない株を、素人だけで売買し、それが株価形成につながっている)
というあたりでしょうか。
ちなみに、当方は、IPO銘柄については、それなりにですが判断能力があるとの自負がありますが、自分の投資対象は、東証1部上場企業です(新興市場は殆どウォッチもしていません)。
(July 13, 2007 23:01:32)

cpainvestor:

オリーブの木様

コメント、ありがとうございます。
確かに最近の新興小型株は、大型株に比べ相対的に安くなっているものが多いように思います。景気の先行きなどマクロ的な要因はあるにせよ、手堅いリピート需要のあるようなビジネスを展開している高収益企業は、こういう時に丹念に拾っていくべきなのだと個人的には思っています。

 先月までに中国株を売却した資金のほとんどは、最近、日本小型株を拾っています。
(July 14, 2007 09:36:16)

cpainvestor:

森本様

 ご訪問、ありがとうございます。

こちらこそ、先日はお世話になりました。
「理念」とか「価値観の軸」というものが共有できないと、優秀な人間を束ねるのは難しいのだと思います。

 ぜひ、思いを共有できる方々と独立系投信を成功させてもらいたいと思います。

私も微力ながら応援させて頂きます。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

ブログの方もちょくちょく訪問させて頂こうと思います。
(July 14, 2007 09:42:48)

cpainvestor:

ipocounsultant様

先日は、お世話様でした。
専門的な立場からのコメント、ありがとうございます。

かつて、あなたが言っていた「監査報酬等のディスクロージャーコストもろくに負担できない会社は、ビジネスモデルがそもそも上場に適していない(洗練されていない)のだから、上場すべきではない」との発言、とても印象深く私の中に残っています。

IPOがゴールだと思っている会社、けっこう多いですよね。かつて私も審査をしていた時、「投資家が聞いたら怒るだろうな」と思うことも、多々ありました。
けしからん事例については、結局投資家がもっと怒らない限り、この国の資本市場は変わらないだと私は思っています。

その意味で私の草の根コラムも続けていきたいと思っています。

今後ともどうぞよろしくお願いします。
(July 14, 2007 09:54:55)
:

:

Trackbacks