June 29, 2006

最近購入した地味銘柄

 名古屋を地盤とするアパレル企業、リオチェーン(名証2部9834)を購入しました。若い女性がメインターゲットのアパレル業界は、元来、流行による市場ニーズの変化が激しい上、少子化により市場全体のパイは縮んでいます。また、ファーストリテイリング(9983)、ハニーズ(2792)などの海外への製造委託と機動的な在庫管理を得意とする製造小売業(SPA:Speciality store retailer for Private label Apparel)の台頭で製品の低価格競争が進んでいるため、競争環境は極めて厳しいマーケットであるといえます。
 それにもかかわらず、私が関東では無名と言ってよいこの名証2部銘柄を購入した理由は以下のとおりです。

? 現時点での株価がとにかく割安
(ア) その豊富な手元現金を考えると、極端に割安です。06年2月末決算の段階で、現金預金だけで9,789百万円、時価のある投資有価証券で1,005百万円を保有しており(合計10,794百万円)、無借金です。これに対して06年6月26日現在の時価総額は13,631百万円です。毎期2,000百万円以上の経常利益を稼ぎ出している事業の価値が13,631百万円−10,794百万円=2,837百万円という状況はありえない価格水準です。収益が安定している事業の価値を考えると、倍の時価総額がついてもまだ割安だと思います。その意味で「安全域」が大きいといえます。
(イ) 成長力の魅力には欠けるとはいえ、予想PER14倍、PBR1.0倍も同業のアパレル企業と比べても若干割安に見えます。また、予想EV/EBITDA倍率は、なんと1.6倍です。投資資金が1.6年でもとがとれる計算です。マーケットが暴落したとしても、この銘柄に与える影響は資産価値の下支えがある分小さいでしょう。(ボラティリティが低い。)

? 変化の激しい業界に属しているにもかかわらず過去の利益水準が安定していること。
(ア) 過去3年間、売上は27,000百万円近辺でほぼ横ばいですが、経常利益水準は2,000百万円を割ったことはなく、流行や天候に業績が左右されやすい変化の激しい業界にいながら、業績は極めて安定しています。
(イ) 過去の実績と当期の会社予想などを見ても、07年2月期も大きな売上の伸びは見込めないものの、前期と同程度かそれ以上利益が稼ぎ出せる予定です。280店以上にのぼる店舗基盤は、スクラップアンドビルド施策を通じて着実に強化されている印象を受けます。減損会計の適用も済んでいるので、現時点で明らかとなっている不採算店舗に関する損失は既に処理済と考えてよいでしょう。
(ウ) 安定した利益水準を反映して、配当利回りも1.7%以上となかなかの水準です。保有するキャッシュの水準を考えると、もう少し配当を増額して欲しいところではあります。

 この会社に関して私が認識しているリスク要因は以下のとおりです。
? 当社の大株主であるリオ横山、アサヒリオなどの未上場のグループ会社との関連当事者取引が多く、(注記での開示がなされている)利益操作が常に行われやすい環境にあること。
(ア) 未上場事業会社との社長の兼任、不動産の賃貸借、商品の仕入販売など、関連当事者取引が目白押しです。これは、全社の売上水準からすると、小さい金額である上、開示制度によりある程度の牽制効果が得られるものの、関連当事者を利用して利益操作が行える(株主の持分である当社のキャッシュを吸い上げることができる)環境があることは事実です。特に、リオ横山とリオチェーンのビジネス上の棲み分けが開示資料だけでは、明確につかめません。西武グループと似た構図ですので、その取引金額、件数などの推移には十分注意が必要であると思われます。
(イ) これだけの関連当事者取引がそのままの状態では、いくら事業規模が大きくても、絶対に東証への鞍替え上場の申請には通らないと想定されます。少しずつでも関係解消に動いて東証を目指して欲しいものです。リオチェーンは「公開企業」なのですから。

? 典型的なオーナー企業であるため、業績は結局オーナー一族次第である。
(ア) 現在、オーナーは、一族関連企業を通じて5割超の株価を保有しています。オーナー個人ではなく、法人所有となっていますから、事業承継対策も万全なのではないでしょうか。
(イ) 横山一族に経営の上手い、公私混同を避ける傑物が出続ければ問題ないですが、そうでない場合には、会社が傾きます。キャッシュがあるので、今すぐというわけではないですが、経営幹部人材の育成に励んでもらいたいところです。

? 当社の業績は天候や流行などの外部環境の影響を受けやすい業態である。
(ア) アパレルは水物商売です。良いときと悪いときの落差が激しいので、タイムリーな在庫管理の巧拙が業績に大きな影響を与えます。投資家としては、四半期ごとの業績動向、在庫水準をきちんと追いかけて検証する手続が重要と思われます。
(イ) 複数のブランドで服飾店を展開し、顧客のセグメンテーションを行っているようですが、この会社の粗利益率からいって、海外有名ブランドのような強力な差別化価値は築けていないと思われます。その上、ターゲットとしている客層の所得水準はそれほど高いとは思えませんので、競合他社との価格競争に巻き込まれている可能性が高いです。やはり業績(特に粗利益率、営業利益率)のタイムリーな監視は必須でしょう。

? 名証2部という地味市場に上場していることによる知名度不足と流動性不足
(ア) 結局のところ、この会社が割安に放置されている最大の原因は、マイナー市場に上場していることによる知名度不足、流動性不足にあると思われます。この時価総額、取引高では、物好きな一部のバリューファンドを除く機関投資家は参戦してこないでしょうから、何か株価が上昇するきっかけがつかめないとずっと割安放置の可能性があります。
(イ) 多くの新興市場バリュー株と同様、個人投資家の売買がメインで1日の取引高が少ないため、売りたいときに売れないリスクはあります。

   総括すると、事業としての魅力度(同業他社と差別化できる特徴)、成長可能性などは乏しいものの、保有資産額に加え、既に一定の事業規模があり、安定した営業CFが稼ぎ出されていることから、現在の時価総額は十分な資産価値に裏付けられているといえます。(私は極端に割安だと思っていますが。)このため、相場が大きく変動したとしても、この銘柄の価格変動に与える影響は小さいと思われます。
ただ、事業魅力度に乏しい上、関連当事者リスク、マイナー市場上場による流動性リスクもあるため、いくら激安と思っていても、あまりこの銘柄に集中投資する戦略はとりたくはありません。
私自身は、ポートフォリオ多様化によるリスク分散のための割安抑え銘柄として、しばらく一定株数を保有し続けようと思っています。



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June 26, 2006

退場したら終わりです

尊敬する個人投資家の角山さんが6月23日のコラムで「投資を継続することの重要性」を改めて記載しています。「株価が、ここが底なのか、まだ下がり続けるのかは、誰にもわからないものです。ただ1つ、確かなことは、預貯金では資産を形成できないということです。」この一言は重いです。

  現在のような軟調な株式相場が続くとき、私も、いかにして投資家として「致命傷」を負わないかを真剣に考えています。恥ずかしながら、2000年のITバブルの崩壊の過程で、「長期投資=保有株の塩漬け」と思い込み、運用資産の40%程度を失う打撃を受けました。今よりずっと金額の小さい運用資産でしたが、それでも当時の私は、本当に株式投資をやめたくなったものでした。
それから、価値のあるものを割安で買うことに徹する「バリュー投資」に出会うまで、暗中模索の日々が続いたものです。日々の仕事の中で、企業の決算書は裏も表も絶えず見ていますので、「状態がよい会社か悪い会社か」の見分けはかなりつくほうだと思っています。ただ、その会社が「価値と比べ価格が割安かどうか」の見分けは、過去情報である決算書を読む知識をいくら高めたところで身につかないことを痛感しました。「決算書を読む能力」と「企業の価値を見抜く能力」は似て非なるものです。

  最近では、「判断ミスをするのは当然だ」と悟り、個別銘柄の運用資産の含み損が10%を超えた時点でいったん問答無用で全株「損きり」することを徹底しています。その上で、どうしても手放したくない割安株は、いくらか買い戻す株式も多いですが、損失は確定させてしまい、節税に使います。苦しいですが、このポリシーが、中長期的に株式投資を継続することができることにつながると確信しています。
  また、新たに購入を検討する銘柄についても、最近の購入予定リストには、相場環境もあって、PER、PBRが平均より低いのは当然のこと、EV/EBITDA倍率が低い傾向にあるキャッシュリッチ企業への投資をメインに添えています。これは、投資における「安全域」を重視しているためです。STEP以外の最近購入した銘柄についても、今後報告したいと思います。

  退場したら負けです。大やけどをしないようにして、細く長く投資を続けたいと思っています。


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June 20, 2006

ファイナンシャル・リテラシー(金融財務知識の理解力)の重要性を意識させる良書




  北村慶氏の著作「外資ファンド利回り20%超のからくり」を読了しました。本屋で平積みされた時のインパクトを考えてのことでしょう、時機を狙ったセンセーショナルなタイトルがつけられていますが、内容は、投資ファンドを題材に、一般投資家が金融・財務関連知識を学ぶことの重要性を説く良著でした。

  DCF法、IRR、イールド・ギャップ、レバレッジ効果、無裁定価格理論、シャープ・レシオ、ポートフォリオ理論・・・多くの財務関連のKey Wordが平易に解説され、投資ファンドの実際の行動から、その本質的な意味での使い方が理解できるように記述されています。こうした内容について、基礎からしっかりと理解したいという方にとってはオススメの書籍であるといえます。

  私が、特に共感したのは、第10章以降です。この章では、確実に高齢化が進む日本が見習うべき、「覇権国家から脱皮した年金生活国家」としてイギリスの例を挙げています。イギリスでは、市民生活に必要な法律、経済の必要な知識を、中学生、高校生など早い段階から学ばせているようです。日本においてもこうした教育を市民の成長段階に応じて実施していくことが、これまで先人が築いてきた1500兆円にのぼる国富を毀損しないために重要だと説いています。

  先日、出張中の新幹線の中で、藤原正彦氏のベストセラー「国家の品格」も読みました。上記北村氏の著作とはまったく正反対の内容です。藤原氏の言うように、日本には「清貧」を尊ぶ文化があり、これが類まれなる豊かな中流社会を築いてきたことも事実でしょう。

  ただ、これから先、より経済はグローバル化し、否が応でもアングロサクソンが築いた経済スキームに日本は組み込まれていきます。また、着実に日本は高齢化が進み、経済の屋台骨を支える生産年齢人口は減少していきます。こうした中で日本の良さを残していくためにも経済的基盤は重要ですし、世界に向けて情報発信をするためにも、欧米人の文化や言語を学ぶことの重要性を痛感します。年金が約束どおり受給できるかが疑問で、老後の生活に大きな不安を残す状況において、「武士道」や「もののあはれ」を叫んでみても逃げ切り世代はともかく、若い世代はついてきません。

  さて、北村氏の著作に話を戻します。私も会計士受験という「机上のお勉強」の中で、上記のような財務関連用語は理解しているはずでした。しかしながら、新米会計士の頃、恥ずかしながら、なぜ、多くの外資系投資ファンドがこれだけ不良債権を買い漁っているのかをよく理解できずに、債権価値評価、企業価値評価の仕事をしていました。かつて一緒に価値評価関連業務をしていたA社B社は、その後、価値評価業務で培ったノウハウを元に、自らアセットビジネスに乗り出しました。そしてあっという間に上場を果たし、現在はとても大きな企業となっています。「知識を学ぶこと」以上に、「その知識をどう使ってキャッシュを稼ぎ出すか」が重要であることを実感する今日この頃です。







00:11:21 | cpainvestor | | TrackBacks

June 18, 2006

個人投資家の成熟の必要性

  東京証券取引所を初めとする全国5証券取引所の平成17年度株式分布調査によれば、個人株主数(延べ人数)は3,807万人となり、10年連続で過去最高を更新したそうです。


  ここ数年の株高で「にわか投資家」が増加していることは、私の周りでも実感します。仕事柄、企業研修のセミナー講師などを担当することも多いのですが、会社分析に必要な財務・会計知識の習得をめざすセミナーなどを実施すると、私が雑談で株式投資の話しをすることも多いからでしょうか、必ず「自分の株式投資にも役立ちそうです。」「講師オススメの銘柄は何ですか?」といったコメントを頂くことがあります。(笑)


  私が担当するセミナーのほとんどは、あくまで「職務に関連する知識の習得」が主催者側の目的ですので、いくら受講者満足度が高くても、あまりこのようなコメントが出るのは望ましくはないのですが、株式投資をきっかけに、「ビジネスの世界の言語」である財務・会計知識を本格的に勉強してみたいと思う方が増加することは、とても良いことだと思っています。一人一人の個人投資家が少しでも損を最小限に抑えるために勉強し、洗練されていくことこそが、日本の資本市場を良くすることにつながると思うからです。


  このブログも当初は、私自身が「賢明なる投資家」に少しでも近づきたいと思い、投資備忘録として始めたものでした。ただ、最近では、毎日かなり多くの皆さんが訪れて下さるようになっています。これからは、頻繁に訪れて頂いている皆さんのことも意識して、文体も少し丁寧なものに変更しようと思います。


  個人投資家として、実務家として、皆さんの役に立ちそうな財務・会計に関する知識も少しずつ提供していけたらと考えています。投資と同様、こうしたコラム執筆も継続が大切だと思っています。細く長くおつきあい頂ければと思います。


  P.S.たけ先生のブログを相互リンクサイトとしました。ブログのコラム同様、HPの行動ファイナンスに関する知識は、とても勉強になります。


11:26:12 | cpainvestor | | TrackBacks

June 11, 2006

投資家として確実に購入を避けたほうがいい1年以内IPO銘柄

実務家として、投資家としての経験上、購入は避けたほうがいいIPO銘柄チェックリストを作成してみました。目論見書を見る際のご参考にどうぞ。ここでは、あえて割高、割安については触れていません。だって、初値はほとんどの銘柄でValuation的に割高ですから。

? 主幹事が3大証券以外
? 上場市場が関東圏以外
? 直前期売上が10億以下
? ビジネスの柱がワンアイデア
? ビジネスモデルがBtoBで売上が作りやすい
? 大株主がファンド
? 大株主、役員、関係会社など関連当事者取引が多数開示されている
? 手取り金の使途として積極的なM&Aをあげている
? リスク情報開示多数
? 取締役の経歴に上場会社勤務の経歴がまったく見られない

半分以上該当したら、間違いなく、買わない方がいいと思います。発行体も、主幹事証券会社も、監査法人も、証券取引所も、大株主も、中長期での会社存続を想定していない場合があります。


01:51:53 | cpainvestor | | TrackBacks