January 20, 2007

住宅購入の際にDCF法を活用するススメ


   竹井さんのブログを読んだので、私も少し不動産について書いてみようと思います。
   最近、私の周りの若手スタッフの間で住宅購入ラッシュが続いております。皆、私には信じられない値段の、職場から30分通勤圏内の新築高層マンションや、1時間通勤圏内の一戸建てを購入しています。夫婦共々会計士など、たとえ使用人であっても二馬力でそれなりに稼げる見込がある方々はともかく、一馬力で家族持ちの方々も、都心の一戸建てなどを35年ローンなどを組んでチャレンジしているのを見ると、この人は本当に「人の会社の財務内容を分析などしている場合なのでしょうか」と少し疑いたくなるときもあります。(笑)
   「なぜ買うの?」と聞くと、「金利がもうすぐ上がりそうだから。」ですとか、「都心に良い立地の土地が少なくなっており、今後マンション価格が上がりそうだから。」といった、まるでマンションデベロッパーの営業マンのような答えが返ってくることが多いです。部屋の間取りやインテリアを考えたりすることは、端から見ていても結構楽しそうではあります。


   先日、我が家でも住宅購入の話題が出たので、近隣の新築マンションの価格が、いったいどれくらい割高なのか、DCF法を使って簡単に計算することにしてみました。

以下、DCF法を適用するための前提条件です。
○ 自分で新築マンションを購入(取得原価37,100,000円)し、これを20年間貸し出して、21年目に売却する投資対象物件の理論価格を、DCF法を使って計算することとする。
○ 賃料収入は、対象物件の近隣の築浅の似たような間取り、広さの物件が貸し出されている賃料収入の水準をYahoo不動産で調べて、165,000円/月を採用することとする。ただし、11年目以降は、月額賃料が10,000円下がり155,000円/月となると仮定する。
○ 不動産を保有していることによる諸経費(共益費、修繕積立金、賃貸管理料、固定資産税等)を投資対象物件のデータなどを参考に、40,000円/月とする。
○ 20年後の売却収入は、現在築15年〜25年程度の似たような間取り、広さの近隣物件の売却希望価格をYahoo 不動産で調べ、やや楽観的に見て20,000,000円と仮定した。ただし、売却に伴う仲介手数料等(660,000円とする)がかかるため、手取りは19,340,000円とする。
○ 割引率は、草創期の不動産REITの利回りが6〜7%あったことを考えて、6%を採用する。(個別物件の様々なリスクを考えるともう少し高い気がしますが、とりあえず6%とします。)
○ 空き室のリスクは、次の入居者からの礼金で賄えると仮定し、ここでは考慮しない。
○ 物件売買に伴う消費税等も考慮しない。

   上記前提条件で、エクセルでちゃちゃっと計算してみたところ、投資対象物件の理論的価値は、23,757千円となりました。取得原価は37,100千円ですから、理論価格に比べて、56%も割高であることがわかりました。これは一点読みの計算ですから、実際には、家賃の変動や、空き室など、各種のリスクを加味すると、ダウンサイド、アップサイド共にもう少しレンジを広げて理論価格をはじく必要はあると思います。

   もちろん、住環境は、生活の基本となるものです。特に妻や子供達にとってその環境は極めて重要であることは間違いないので、全ての要素を定量的に評価することができません。ただ、「56%以上割高である」という事実が数字として見えてしまうと、なかなか定性的な魅力だけでは、この新築マンション物件を購入する勇気が今の私にはありません。

   いずれ、もう少し大きな家は必要になるかなとも思いますが、家族には、もう少し今の賃貸マンションで我慢してもらおうと思っています。そして、もう少し良い中古物件の出物が出るのを、地元に根を張っている不動産屋さんにでも頼んで、じっくり待ちたいと思います。

   私は常々思うのですが、10円でも安い食材を求めてスーパーのチラシを見比べるなど、日々のオペレーションコストの節減に注力している方々に限って、住宅や車など、長期に渡って家計に大きな影響を与えるものへの支出を、ろくな採算計算もしないで、簡単に決断してしまうような気がしてなりません。経済全体の伸びが堅調で、不動産価格が右肩上がりの時代であるならばともかく、今の時代には不確実性はつきものです。ファイナンスの知識は、家計にこそ応用すべきだと思っています。

   節約の基本は、「長期に渡って影響する大きな支出こそ、そこから得られる効果とコストを慎重に検討して決断する」ということだと思っています。少しでも安い食材を求めていくつもの店をまわったり、自分が唯一の先輩で、残りは後輩と飲んでいるのにきっちりと割り勘を徹底したりする努力を否定するつもりはありませんが、まずは中古車に乗り換えることが先だと思う私はやはりケチなのでしょうか。


Posted by cpainvestor at 12:57:36 | from category: c.投資雑感 | TrackBacks
Comments

通りすがりリーマン:

私も長期ローンを組んで家を買うやからの頭の中がわかりません!

私の忠告も聞かず買って離婚して慰謝料払って売却損埋めるために再度ローン組んだツレもおります。。。

買うなら10年で返済できる程度のものと決めております

もちろん株で成功して潤沢なキャッシュがあるときと決めております
(January 22, 2007 00:39:56)

prosper:

いやあ面白い考察でした。ここまで考える住宅取得者はいないでしょうね。

ところで20年後に売却する価格は、現在価値に割り引く必要ないのですか?
(January 22, 2007 12:35:17)

cpainvestor:

 通りすがりサラリーマン様

 コメントありがとうございます。私は住宅購入そのものが反対というわけではありません。あくまで割高物件を購入するのに反対しているだけです。
 中古で立地がよく、価格もリーズナブルなら、低金利のレバレッジをきかして購入しても良いかなとも思っています。当然、子供が巣立った後はそれなりの利回りで賃貸にまわせるのがベストなわけですが。
(January 22, 2007 18:29:56)

cpainvestor:

Prosper様

 ご訪問ありがとうございます。私は人生最大の出費をするかもしれないのですから、これぐらいは考えるべきだと思っていますが、多くのお客さんはその労力をかけるのもいやなのですかねえ。

 上記の例題、当然、21年目の物件売却収入も加味してはじいた数字です。21年目の19,370千円の売却収入の現在価値は、割引率6%とすると、6,015千円にしかなりません。
(January 22, 2007 18:34:50)

o-hide-sun:

結婚と住宅購入は錯乱状態じゃないとできない!と、友人にアドバイスされたことがあります。
ちなみに建築家のその友人は、同じタイミングで両方を決行しています。かなりいってたらしい・・・。
(January 23, 2007 23:10:37)

o-hide-sun:

結婚と住宅購入は錯乱状態じゃないとできない!と、友人にアドバイスされたことがあります。
ちなみに建築家のその友人は、同じタイミングで両方を決行しています。かなりいってたらしい・・・。
(January 23, 2007 23:10:50)

竹井 優:

intelligent investorさん、丁寧な分析読ませていただきました。

私の粗雑なブログ考察をきちんと理論的に検証していただき、ありがとうございます。

3700万で家賃16万5千円でもこれほど割高に算出されてしまうのですね・・・。

私の周囲の友人が購入している物件は、家賃に上方硬直性があるためか7000万〜8000万、家賃20〜25万程度の物件が多いと感じています。

これだとさらに利回りが低下しますよね・・・。
(January 24, 2007 01:09:40)

よう:

面白い考察ですね。

ただ、折角なので疑問点も提示させて頂くと…

みんながみんな、住宅に6%もの高いリターンを希望するのか?

というのが疑問です。つまり、物々交換として損しなければ本来は割高とは言えないのではないかと。

DCF法ではなくて、素の数字で計算するとします。

・家賃、売却金額はそのまま
・空室率を80%と仮定(礼金は仲介料で不動産屋に分捕られると仮定)

家賃収入=(16.5×0.8-4)×12×10+(15.5×0.8-4)×12×10=2112万円
売却収入=1934万円
合計=4046万円

購入金額比1.09倍

家賃や売却収入はインフレと大雑把にリンクすると仮定すると(ほんとに大雑把にしかリンクしませんけど…)、インフレに関する目減りはないはずなので、損得でいえば損でも得でもない、という気がします。

つまり、投資対象としてみた場合は(プラスのリターンを求めるので)cpainvestorさんの計算どおり、お買い得ではない。

でも、お米や何かを買う時のように、プラスのリターンを求めない物々交換としてみた場合は、今回のケースでは妥当な値段だろうと思うのです。

ちなみに、この意見はあくまで一般の人に当てはめる場合はこうだろうという考えでして、自分の家を買う場合はプラスのリターンを狙うと思います(笑)。
(January 26, 2007 15:17:09)

cpainvestor:

よう様

たちつて投資のよう様でしょうか。

 おっしゃるようにキャッシュを生む資産ではなく、プラズマテレビなどと同じ耐久消費財と考えている方も多いのだと思います。
  そうでないと、財務が専門のはずの同僚がなぜわれ先にと割高物件を購入しているのか理解できませんから。実際には例であげた物件もリフォームなしで、2000万円でEXITするのはかなり厳しいでしょうから、やはり貨幣の時間価値を無視しても損だとは思います。

 ただ、やはり資金運用の機会コストを考えると、資金のほぼ全てを住宅に突っ込むのは、やはり私にはできません。
(January 27, 2007 01:14:00)

AKI:

草創期の不動産REITには今投資できるわけではないので、今のREITを基準にした方がいいと思いました。

あと、REITは有利子負債を駆使して利回りを高めています。マンション購入も住宅ローンを使うのが王道ですから、レバレッジも考慮する必要があるかと思います。
(January 27, 2007 08:01:32)

cpainvestor:

AKI様

コメントありがとうございます。

割引率の問題は、私も同様に様々なことを考えました。ただ、自分が、不動産投資をするなら、最低何%ぐらいの要求利回りを求めるかというふうに考えると、やはり株式投資などとのバランスを考えても、6%ぐらいは欲しいと思ったのが正直なところです。
(January 28, 2007 23:19:31)
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